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ktdiskのブログ

読んだ本の感想、所々の雑感、日々のあれこれを綴るブログ。

『インテリジェンス 武器なき戦争』 機知と知性に溢れる知識人の掛け合い

『インテリジェンス 武器なき戦争』を読んだので書評を。

インテリジェンス 武器なき戦争 (幻冬舎新書)

インテリジェンス 武器なき戦争 (幻冬舎新書)


NHKワシントン特派員で外交ジャーナリストの手嶋龍一と元外務省ロシア担当で外務省のラスプーチンと呼ばれた佐藤優の対談本。政治・外交は私の中ではかなり不得意、不勉強、不興味のエリアだが、そんな私でもあまりにも面白く一気に読了してしまった。外交などに興味が無くとも、機知と知性に溢れる二人の知識人の掛け合いは読み物としてそうとう楽しめる。


二人の頭脳超明晰な対談者の知性に全編でふれることができるというのがとにかく本書の一番の面白みであるが、他にもいくつも読みどころはある。まず、霞ヶ関や国営放送という超巨大組織の一員でありながら、それらと絶妙な距離感を保ち、プロフェッショナルとしての己の能力一本で生き抜く二人の対談者の生き様にふれることができるという点が一つの読みどころ。

インテリジェンス・オフィサーは、国家からお金をもらい、国家のために極秘の情報を集めます。しかし僕らジャーナリストは、あまねく一般からお賽銭を頂戴して、その情報をみなさんに還元するのが仕事です。僕はどちらかというとタメのあるジャーナリストです。知り得た情報を鵜飼いの鵜みたいにすぐに吐き出したりはしない。その意味では、所属していた巨大組織に忠誠心がとぼしかったといえるかもしれません(笑)。しかし、みなさんから受信料というお賽銭をいただいた分は、長期的にはしっかりと還元しています。NHK時代に、ハーヴァード大学から招聘されたことがあります。この間は、取材の現場を離れていたのですが、現代史の泰斗、アーネスト・メイ教授からの勧めもあって、キューバ危機の際、閣議の模様を録音していたテープの機密解除に関わりました。その成果は後に、長編のドキュメンタリー『決定の瞬間』を制作したことで実を結んでいます。長い眼で見れば私の情報還元率は、そんなに悪くないと申し上げていい。
『インテリジェンス 武器なき戦争』 〜序章 インテリジェンスオフィサーの誕生 P.25、26〜

NHKというのはあくまで自分が楽しい仕事をするためのプラットフォームであり、自身の仕事の成果の一部を寺銭として納めている限りは後ろめたいことはなんらない」、という手嶋龍一の巨大組織との距離感が上記の言葉からは染み出している。巨大組織に所属する人の9割以上は、安定的に給与を組織から供給してもらうことに所属意義を見出しているが、手嶋龍一はその真逆をいっている。張り巡らされて取材ネットワークや潤沢な取材費を活用して自らあげた仕事の成果を安定的にNHKという組織に寺銭として供給してあげているのだ。自分の仕事の成果を全て提供しないという点では確かに忠誠心が乏しいが、それでも一般的なNHK社員の100倍以上は組織に貢献していると見て間違いない。大組織のアウトプットはもちろん規模を活かした組織的な取組により生み出されることもあるが、こういうまれに出現する稀有な才能を持った人にも多くを依存しているというのも、真実である。


別の読みどころとしては、国家機密という最高難易度の情報を長年取り扱ってきた、「情報」そのものに対するプロフェッショナルの「情報観」にふれることができるという点。本書のまえがきで佐藤優は下記のように書く。

秘密情報の九八%は公開情報を再整理することによって得られるという北朝鮮に関して、控えめに見積もって東京で熱心に情報収集活動をすれば、インテリジェンス専門家が必要とする情報の80%を入手することができる。
『インテリジェンス 武器なき戦争』 〜まえがき P.4〜

ある情報に触れ、そこからどれだけ多くの真実をえることができるかは個人の能力に依存する。能力が抜群に高ければ国家機密という類の情報であっても公開情報を再整理することにより98%は得ることができるというのは、正にそれを実践してきた佐藤優の言葉であるからこそ非常に重い。もちろん外務省にいるか、市井の一市民であるかによって入手可能な情報の純度は異なるだろうが、得た情報を濾過する優れたフィルターを自分の中に持っているか否かも同様に重要ということだろう。
Googleなどの功績により入手可能な情報の純度が年々高まっているが、Googleが誰に対しても開かれているからこそ、個人としての差別化要因は自身の中に内在するフィルターの性能なのだということを改めて考えさせられた。


『獄中記』、『国家の罠』、『ウルトラダラー』など、幸いにもまだ読んでいない本が沢山ある。今年の年末年始は読書の時間がたっぷりとれそうなので楽しみだ。

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