アマゾンがNYの報道関係者・ブロガーを一堂に集めてユニオンスクエアのW Hotelでジェフ・ベゾスのeブックリーダー「Kindle」発表会を行った。
- 開発にかけた期間は3年間、液晶ではなくE Ink*1の技術を使用
- パソコンを使用する必要が無く、ネットワーク月額利用料も無し
- 新聞・雑誌・ブログも購読料を払えば利用可能だし、Wikipediaへのアクセスも可能
などの特徴を持つ"Kindle"。端末の値段、デザイン、ネットワークの月額利用料、ビジネスモデルなど、事業としての将来性は賛否両論で、ものになりそうかどうかを判断するにはもう少し時間が必要。ただ、私は今回の挑戦を、Amazonの「こちら側耐性」がいかんなく発揮されたその潜在競争力の凄まじさを示す事業だと評価する。
「こちら側耐性」という言葉を使ったが、要するに「こちら側」で事業を運営する能力と考えて頂ければよい。Amazonといえば「あちら側」で本屋を作った企業であるが、本を仕入れ、配送センターで顧客に向け発送したりするのは「こちら側」。それ以外にも、納期を管理したり、返品を受け付けたり、発送ミスに対応したりと「こちら側」の作業をあげればきりがない。Amazonというととかく、アフィリエイトだとかお勧め機能だとか「あちら側」の凄さに焦点があてられるが、多額の投資を要する泥臭い物流センターをエクセレントに運営しているその「こちら側耐性」こそAmazonの凄さである。
チープ革命がすすめば「あちら側」での事業設立コストはそれに応じて下がり続けるが、一方で「こちら側」での効果は非常に限定的である。Tech Crunchなどをみているとそのチープ革命の追い風をうけてWEB 2.0系の企業が百花繚乱という感じだが、その中で「こちら側耐性」まで兼ね備えた企業は正直皆無に等しく、それは「こちら側」への参入障壁ゆえだろう。だが、顧客は「こちら側」と「あちら側」の両方の世界に立脚しているわけだから、その両面への強さに溢れる企業がもっと現れなければ社会のニーズには応えられない。
話をKindleに戻す。Kindleを販売するということの凄さは、巷でWeb 2.0化したといわれるAmazonが「モノ作り、モノ売り」の世界に進出したということにつきる。私はここ2年ほど「モノ作り、モノ売り」に携わるという得がたい経験をしているが、サービス業に従事してきた者にとっては「モノ作り、モノ売り」というのは本当に大変。
開発して売るまではそれなりにできるが、故障や修理に対応したり、使用部品の供給切れに応じて仕様変更をしたり、製造ラインの稼働率と在庫管理に頭を悩ませたりと、バーチャルな世界からは創造できないほどの泥臭く、かつ高度なノウハウを求められる領域が多い。そこにあえて進出できるのが、物流センターなどで「こちら側」耐性をつけたAmazonの底力だと私はKindle発表ニュースを聞いたときに直感的に感じた。
今日(米国時間10/8)はNYTまで報道合戦に加わり、グーグルの(2005年Android買収に始まる)携帯事業の狙いはアップルのiPhoneではなく、むしろWindows Mobile相手の競争に勝つことにあるのではないか、と書いている。
プレスリリースはここ。Google Phone担当者Andy Rubinは次のように書いている。:
これまで数ヶ月間にわたり、非常に興味深い様々な憶測が流れたが、われわれはGphoneの発表を行うというわけではない。しかしながら、単なる一つの端末よりも、さらに意義深く野心的な「Open Handset Alliance」と「Android」についてお知らせしたい。
一方で最近のGphoneについての一連の動きをみてみると、どうやらGoogleはGphoneという「モノ作り、モノ売り」には進出しないように見受けられる。「単なる一つの端末より意義深い」とのコメントがあるが、「単なる一つの端末」を世に提供できないこと、それがGoogleの限界であるとAmazonの挑戦を眼にすると強く感じる。
*1:E Inkは一番身近なところで言うと子供用のお絵かきボード「せんせい」のような感じ