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ktdiskのブログ

読んだ本の感想、所々の雑感、日々のあれこれを綴るブログ。

『the cult of amateur』と『デジタル音楽の行方』の衝突は不発

Column

Andrew Keenの『the cult of amateur』に『デジタル音楽の行方』の著者であるGerd Leonhardが登場する。"the day the music died [side a]"という章でサンフランシスコのとあるカフェで二人が対談するシーンがでてくる。Keenは"Audiocafe.com"というサイトの立ち上げをした経験を持つため、「デジタル音楽」という領域には、他のデジタル分野以上に深い知見をもっているはず。『デジタル音楽の行方』はかなり読み込み、その内容には大きく同意することが多かったため、どのような討議が二人の間でなされるのか、かなり期待して読んだのだが、意外と深堀感が薄く、不発気味で非常に残念な思いをした。


『the cult of amateur』で紹介されるLeonhardの主張は下記の通り。

  • 10人中9.5人は音楽に対して興味を持っているのに、10人中2人しか音楽を購入しない現状を鑑みるに、音楽は水道や電気のようにユーティリティ・モデルで供給されるべき
  • 現在音楽はかつてないほど、我々の身の回りに普及しているが、それはインターネットの力によるところが多い


それに対して展開されるKeenの主張は下記の通り。

  • 2005年に合法的に購入された音楽5万曲に対して、違法ダウンロードされたのは200億曲にのぼり、10名のうち2名は音楽に対して対価を支払うというLeonhardの考えは非常に楽観的であり、40名のうち1名と見積もるのが妥当*1
  • インターネットの力は確かにかつてない程音楽を普及させたが、お金がそれについて回っていないことが問題であり*2、いまや音楽は電気や水道というより何かの「おまけ」程度の扱いしか受けていない
  • Chris Andersenはレコード会社、レコードの小売店という中間業者が排除されることに対して肯定的であるが、対価を載せて自分の音楽を流通させるという手段をミュージシャンは失ったと考えるほうが適切
  • CDに対価を支払う人が少ないため、時間をかけ、ベストのミュージシャンを雇い、良質の音楽を作っても、そのコストを回収できないため、一流の音楽が生み出されないことが何より問題である


要するにインターネットが普及した現在、音楽に対して対価を支払う人が殆どいなくなったため、対価を元に生み出されていた尊い音楽文化が失われてしまうというのがKeenの主張。その訴えの起点は「音楽に対して対価を支払う人が殆どいなくなった」という点であり、入り口部分で議論がすれ違っているため、本質的な深い議論が展開されなくなってしまった。


私の解釈ではLeonhardが『デジタル音楽の行方』でしてきた主張は、

デジタル音楽の行方

デジタル音楽の行方

P2Pの猛威は実際にレコード会社を滅ぼしてしまうかもしれないが、既存の著作権所有者がコントロールを保持しようとするのを阻んでいるわけではない。レコード会社が新しいビジネスモデルの実験を可能にする提携や譲歩をしてなかったことが、ファイル共有やそれを支援するシステムを助長してきたのだ。

『デジタル音楽の行方』 〜第1章 P.11〜

作品が模倣される作者に対する補填、もしくは最低限でも創作の源への帰属が現在より少なくてよいと言っている訳ではない。いまやあらゆるテクノロジーが利用できるのだから、既知の作品の商用利用をより確実に測定、報告する手段を見出すことに今後取り組むべきだ。現在、作品の商用利用は作者の許可を経て監視されるが、未来のシステムは知識とアイデアのより流動的な流れや、現行システムに替わる分担補填システムを通じた教諭を基礎にできるだろう。

『デジタル音楽の行方』 〜第3章 P.74〜

などに記載されている通り、

  • レコード会社はCD販売という既存の音楽配信手段に固執し、技術の進歩にあわせて新しい音楽配信手段を構築するための努力・譲歩をしてこなかった
  • 現在のファイル共有ソフトの猛威は、音楽をより世界に普及させるための努力を怠り、既得権益の確保に躍起になったレコード会社自らが招いたものだといっても過言ではない

という点である。上記のような点についての激しい意見交換を期待していたのだが肩透かしをくった感じ。Bologsphereで第2ラウンドが展開され、中身の濃い議論がなされることを期待したい。

*1:この例をして、40人に1人しか音楽に対して今はお金を払わないんだとの主張が展開されるが、若干論理に無理があるような気がするのは私だけだろうか・・・

*2:インターネットを利用した音楽配信なんて、音楽ファイルに企業広告を挿入するのがせいぜいである、との例示が本書の中ではされている

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