Thoughts and Notes from CA

アメリカ東海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

経営を語れる資本家と、資本主義や市場を語れる経営者

"産業再生機構が日本に残したもの"というエントリーで紹介した『企業復活』の主人公の一人である冨山和彦さんが5月21日号の日経ビジネスの編集長インタビューにでている。村上ファンド事件、ライブドア事件について、村上さんや堀江さんらの買収者、及び買収対象となった企業の経営者双方とも「低次元」とばっさり切り捨てており、なかなか目をひく。興味深いPhraseをいくつか紹介しながら、コメントを付したい。

共同体の長というのは、外敵と対峙する最高司令官でもあるわけで、戦いというのは完全にゲゼルシャフトの競争原理です。だから、終身雇用とか年功序列の仕組みの中で、ムラの論理で昇格してきた人は戦いに向いていない場合が多い。
日経ビジネス 5月21日号』

日本の経営者というのは、せまいムラ社会の中で村民から一目を置かれる村長タイプの人が多く、黒船から攻撃を受けた際に強烈なリーダーシップが発揮できる能力なんて持ち合わせていないと正に一刀両断。言い方を変えれば、多くの企業が長い間そのような経営形態をとってきた日本の中には、競争を勝ち抜く経営者が育っていないということになる。「長期的視点による経営の重要性」が予定調和至上主義の村長が経営者に居座ることまで肯定してくれるわけではない

胆力があり、根が明るい「ネアカ」であること。一番まずいのは、頭が良くて緻密で性格の暗い人です。会社の緊急時には、完全な情報なんか揃わない。・・・<中略>しかも、分析すればするほど厳しい現実ばかりが見えてくる。緻密で性格が暗い人はノイローゼになってしまう。
日経ビジネス 5月21日号』

確信が持てる程の情報が手元になくとも、正しい意思決定をすることこそが能力なのであることに改めて気付かされる。きれいな情報が全て揃っていれば経営者なんて誰でもできる。少ない情報の中で、暗中模索を楽しみながら、経験や磨きぬいた直感という自分の中に内在するもので勝負をすることが経営者には求められるのだろう。

再生機構ができた4年前に日本には企業再生のプロなどいなかった。けれど、優秀な人材をきちんと教育して送り込んだら、みんな育って、経営者としての能力を発揮したんです
プロ経営者を目指す若手は増えているわけでしょ。六本木でIT(情報技術)ベンチャーを作るばかりが能じゃない。経営というのは人間をどうやって自分の思うように動かすかですから。それを実践するなら"おままごとベンチャー"をやっているより、よっぽど地方の旅館の経営をした方がいい
日経ビジネス 5月21日号』

産業再生機構の大きな成果はその4年間の活動を通して、企業再生の経験を有する経営者を多く排出したことにある。その経験を通して力強く育っていくプロの経営者の芽を育成してきた冨山さんからみると、六本木ヒルズのITベンチャー社長はあまり良くうつらないのだろう。"おままごとベンチャー"の意図するところは詳述されていないのでわからないが、例えば不振企業に赴き、改革を推進し、その企業を再生させることのできるというような「経営者としての能力」があるか否かを問うているのだろうか。日経ビジネスの編集長インタビューという象牙の塔から一刀両断するのもよいが、そのような問題意識があるなら、もう少し降りてきても良いではないかと思う。

機関投資家ファンドにも、経営を語れる人がどれだけいますか。内部留保を取り崩せと叫ぶ村上ファンドの議論は、申し訳ないけど次元が低すぎた。経営者もこれは必要な資金だと確信するなら堂々と反論すればいい。そうしてこなかったところに日本の資本市場の不幸がある。経営を語れる資本家と、資本主義や市場を語れる経営者、これが緊張関係を持って発展するのが本来の姿だと思いますけどね
日経ビジネス 5月21日号』

村上ファンドライブドア擁護派かエスタブリッシュメント派か、という2つの軸で語られることが多い本件、これまた両方とも低次元と一刀両断。特に最後の「経営を語れる資本家と、資本主義や市場を語れる経営者、これが緊張関係を持って発展するのが本来の姿だと思いますけどね」というPhraseは示唆に富む。産業再生機構で「経営を語れる資本家」として、輝かんばかりの結果をだした冨山さんの言葉なので、また説得力がある。


新しい会社を興されるそうだが、今後のさらなる活躍に期待したい。

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