Thoughts and Notes from CA

アメリカ西海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

産業再生機構が日本に残したもの

企業復活  「日の丸ファンド」はこうして日本をよみがえらせた (講談社BIZ)

企業復活 「日の丸ファンド」はこうして日本をよみがえらせた (講談社BIZ)

『企業復活』を読んだ。2004年から2007年までの4年間の間に41件の企業再生を手がけ、約4兆円もの銀行の債権を買い上げ、日本の全銀行の抱える不良債権の1割を処理しただけでなく、総額で300億円近い利益をあげた産業再生機構の物語。
政府系の組織にも関わらず、設立された組織がわずか4年間という超短期間に、300億円もの利益を生み出しただけでなく、当初予定の5年間の活動期間を4年間に短縮し、組織設立の使命を全うしたというのは正に脅威というほかない。
かたい政府系金融機関の話かと初めは食指があまり動かなかったのだが、読み始めると産業再生機構という組織を構成する超精鋭メンバーが数々の企業再生を成し遂げていく様が生々しく描かれており、どんどん引き込まれていった。


読みながら気付いたのだが、どうやら私の場合は、下記の3つの要件を満たしている経営物のドキュメンタリーは非常に面白いと感じるらしい。

  • 不振企業に有能な経営者・指導者が降り立ち、その組織をV字回復をさせる軌跡が描かれている
  • しがらみ、悪習、既得権益保持者という足かせが見事打ち砕かれる様が描かれている
  • ある組織が改革を契機に、蘇生していき、組織として競争力が増していく様が描かれている

ある意味、少年漫画的であり、若干の気恥ずかしさはあるが、最近読んだ経営物ドキュメンタリーで面白いと感じたものはいずれの条件も満たしており、本書の例にもれない。上記に共感される方は本書はお勧め。


中身について、色々触れたいことはあるが、本エントリーではライブドア村上ファンド事件と産業再生機構の関連を少し触れてみたい。

ただし、再生機構の活動の意義は、個々の企業の再生を試みたことだけにとどまらない。その最大の歴史的意味は、日本でこれまで半ばタブー視されてきたM&A(企業の合併・買収)の活用に扉をひらいたことことにこそある。「会社」の存続ではなく、再生すべき「事業」や「人」に着目した数々の企業の復活は、産業界を大いに刺激した。そして、多くの経営者を、M&Aも視野に入れた大胆な競争力強化策へ駆り立てる一因となった
『企業再生』  〜はじめに P.4〜

「多くの日本経営者をM&Aも視野に入れた大胆な競争力強化策へ駆り立てた」という点については、村上さん、堀江さんの功績として語れることが多いが、同時代的に平行して存在した産業再生機構という政府系の組織が「事業再生」を通して同様の功績をはたしたという点は非常に興味深い。
双方ともぬるま湯に一石を投じたという点では等しいが、市場の競争環境にもろにさらされた堀江さん、村上さんではなく、いつでも政府系の隠れ蓑に隠れることのできた産業再生機構が「事業再生」を通して、それらの価値観を体現していったというのは逆説的にも感じられる。


両者の違いは色々な要因があるであろうが、本書を読めば組織の生い立ち以前に、そこに関わった人の違い、より具体的に言えば事業再生のプロである産業再生機構のプロである冨山さんと下記で言うところのアクティビストである村上さんの違いであることが想像される。

バイアウト・ファンドは、未公開企業に出資して過半数の株式を取得し、経営権を握る。その上で、不採算部門の切り離しや本業の建て直しによって抜本的な収益力を向上させ、経営戦略の変更に踏み込む。そうやって企業価値を高め、株式上場や譲渡でキャピタルゲインを得るという手法だ。

村上のようなアクティビストは、経営権を握らない範囲で大株主となって、経営陣に経営改善を要求するのが本来の姿だ
・・・<中略>経営権を握ってしまった瞬間、ファンドは経営に対して責任を持つことが求められる。単に経営陣に文句をつけていればいいのではなく、「では、あなたはどうするのか」との問いに、経営陣と同じ目線で答えなければならなくなるのだ。
『企業復活』 〜第1章 世界初の試み 「日の丸ファンド」の誕生 P.85〜91〜


産業再生機構の最も大きな日本への貢献は、4年間の活動を通して「事業再生」のプロフェッショナルから、実体験を通してそのノウハウを身につけた多くの人を育て、日本経済に解き放ったという点にあるのかもしれない。

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