梅田さんの"「好きを貫く」ことと大企業への就職"というエントリーを読んだ。梅田さんは古典的な日本の大企業を想定されて書かれているので、私の所属する外資系大企業は少し趣が異なるが、私も少しは大企業経験者なのでいくつか思いつくことをコメントしてみたい。
まず、大企業を論じる場合、梅田さんのエントリーのように勤める人の特性を一まとめにするのは少し無理があるように思う。というのも大企業も例にもれず、20/80の法則は当てはまり、所属する人は、「上位20%の人」と「それ以外の80%の人」の2つの集団に分類され、なおかつこの2つの層が存在することを受け入れることが大企業で働くということだからだ。私の感覚でざっくり両者の特徴を書くと下記のような感じ。<上位20%の人>
- 売上・利益の80%を生み出す
- 戦略・組織・プロセスなどの大企業の歯車の仕組みを作り出す
- 「潤沢なリソースを活用し、大きな仕事を思いっきりすること」に大企業への所属意義を求める
<それ以外の80%の人>
- 売上・利益の20%を生み出す
- 組織の歯車となり、上からの指令に基づきとにかく回る
- 「安定した生活基盤の確保、そこそこの仕事のやりがい」に大企業への所属意義を求める
なので、就職活動で悩む学生は、まずは大企業を2つに因数分解し、自分が指向する大企業はどちらなのかを定める必要がある。また、ほとんどの場合「それ以外の80%の人」がスタートポイントとなるし、前者を指向する人でも、大企業に入ったからといって、それが約束されているわけではないことも理解する必要がある。
次に、大企業というのは、2つの税金を納めさえすれば(2つの税金の話は後述)、向き不向き以前に意外と「本業に専念」できる場所だということについてコメントしたい。
- 当面の預金残高が戦略の思い切った実行へのボトルネックにならない
- ビジネス経験豊富な社内リソースにアクセスしやすく、レビュー体制も整っている
- パソコンのトラブル対応などの本業とは関係のない諸雑用から開放される
など、規模が大きくなり、組織がしっかりしている程、本業に専念するために環境は整備される。また、会社のビジョン・戦略・コンピテンシーとぶれない範囲で「上位20%の人」は比較的好きなことができる*1。
先日の”「規模は力」、「官僚制度は必要不可欠」という鼻につく言葉”というエントリーとほぼ同じ引用となるが、ルイス・ガースナーの下記のコメントは「上位20%の人」にとっての大企業の良いところを端的に表している。
- 作者: ルイス・V・ガースナー,山岡洋一,高遠裕子
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小企業は敏捷で、企業家精神に富み、反応が早く、効率的だ。大企業は鈍重で、官僚的で、反応が鈍く、効率が低い。これが今の常識である。
全くの戯言だ。大きくなりたいと思わない小企業には出会ったことがない。規模の大きい競争相手の研究開発予算やマーケティング予算、営業部門の規模と顧客基盤を羨まない小企業にはであったことがない。そしてもちろん、小企業の経営者は、建前では巨人ゴリアテに挑むダビデを装っているが、本音では「あの大企業のように資源を使える立場になりたい」と語っている。
大きいことはいいことなのだ。規模は力だ。幅と深みによって、巨額の投資、思い切ったリスク負担、投資の成果を根気強く持つ姿勢が可能になる。『巨象も踊る』 〜第26章 巨象は踊れないとはだれにも言わせない P.318、319〜
最後に、大企業に勤める人にかかる「税金」について話をしたい。大企業の「上位20%の人」を目指す人は、下記の2つの大企業税を納めることを受け入れなければならないというのが私の大企業観。
- 大きな仕事をしようとすればするほど、社内官僚組織に対して多くの時間を使わなければならない
- 達成した成果から生み出される利益の大半は、自分の懐ではなく組織にぶら下がる人に吸い取られてしまう
前者について言えば、SOX法施行以降、飛躍的な上昇を見せており、本エントリーでは詳述しないが、後者の要素とからまりスパイラルに上昇している点がなんとも物悲しい。これは私が外資系企業に勤めているということもあろうが、その衝撃は近いうちに日本の大企業に押し寄せるだろう。
また、後者について言えば、規模が大きくなればなるほど、意識的かつ意欲的に組織にぶら下がろうとする人が増え(ぶら下がることに職業意識を持っている域に達しておられる方もいる始末)、日本のような利益を上げている限りレイオフ・リストラなんてとんでもないという経営環境においては、そういう人は見ないようにする以外ソリューションはないのが現実。
上記の2つの税金は規模に対して必然的に発生するものなので、これは大企業に勤める人は程度のさこそあれ受け入れなければならない。「その程度の税金負担は大企業の潤沢なリソースを利用するためには当然であり、まったく惜しくない」と思える人は大企業に向いており、「「好き」はさておき「嫌い」への対応に相当な時間をとられることに耐え切れない」と思う人は大企業には向いていないだろう。
*1:まぁ、正直なところ、どの程度好きなことができるかは企業によって、またその人のポジションによって大分異なるが、間口は少しづつ広がってきているというのが私の感覚。