Thoughts and Notes from CA

アメリカ西海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

吉田秀雄の先駆者としての姿勢と闘魂

われ広告の鬼とならん―電通を世界企業にした男・吉田秀雄の生涯

われ広告の鬼とならん―電通を世界企業にした男・吉田秀雄の生涯

『われ広告の鬼とならん』を読んだ。サブタイトルの通り、電通を世界的な企業に育てあげた吉田秀雄の物語り。20年間取材したというだけはあり舟越健之輔渾身の500ページの超大作。以前書評を書いた『社長の椅子が泣いている』に負けず劣らずの迫力ある経営者モノドキュメンタリー。
吉田秀雄の内面からふつふつと湧き出し、豪快に展開されていく様々な経営施策に学ぶところはもちろん非常に大きい。が、本書の醍醐味は、何と言っても、「鬼」と形容されるにふさわしい吉田秀雄の仕事に対する凄まじいまでの気迫を相当な臨場感で体感できること社会にはびこる既成の考えをぶち壊し、新しい事業、そして新しい社会を創りだすためには、周囲を焼き尽くさんばかりのこんなにも凄まじい闘魂が必要なのかと正直舌をまいた。そういう刺激に飢えている若者には是非お勧めしたい一冊。


戦後間もない日本は、広告といえば新聞広告がメインの時代。紙という物資の希少性ゆえに広告に避けるスペースが少ないという、今では想像もできないような環境に直面し、吉田秀雄は原材料がボトルネックとならない民間ラジオ放送を創りあげることこそ、広告界の未来のために必須と、その創出に全精力を傾ける。何とか、民間放送局の開局までこぎつけ、社員を前に下記の叱咤激励をする。

吉田は開局にあたり、社員をホールに集めて、喜びを胸に、緩やかに、しかし厳しいまなざしを向けて語った。
これからはじまる民間放送の仕事は、ちょっとやそっとのことではない、大事業である。命懸けの仕事である。諸君のうち半数は死ぬであろう。しかし生命を賭けても価値のある仕事である。新しい仕事を創りあげることは、まことにむずかしい。むずかしいからこそ、意味があるのだ。幸いにして生き残った諸君は、先駆者としての栄誉をになうであろう。そして、パイオニアになることこそ、男子として最も本懐ではなかろうか。諸君、ねがわくば、生き残って民間放送の先駆者となりたまえ」
『「われ広告の鬼とならん』 〜第四章 群立と「鬼十則」 P.246〜

半分死ぬのかよ・・・、という感じだが、ラジオ局ではなく、広告代理店という立場でありながら、NHKしかラジオ局がない時代に広告スポンサーの原資で成り立つ民間ラジオ放送というビジネスモデルを構築するという偉業は、こういう気迫で形創られていったということがよくわかる。
時代を先駆し続けて、先駆者としての苦しみからそれを乗り越えた時の喜びまで痛感している吉田秀雄がゆえの言葉であり、言わば、時代を創るも創らないも自分の能力・気迫次第というその言葉には勇気付けられる。

「世間の考え方、やり方、世間的な才能努力では世間並みの収穫しかない。諸君がそれで満足だとするなら、もはや何をか言わんやである。少なくとも私は断じて『否』である。
いや電通とはそのようなものではないはずだ。不撓不屈意思に齧りついてでも所信を貫き、他の誰人にも負けない広告の鬼神であるはずだ。
世間の三倍する研究勉強で、誰人にも負けない才能を磨きあげねばならぬ。逞しい努力と土性骨で、総てに打ち勝ち、総てに優先していなければならぬ。

本書の随所にこういう燃える闘魂吉田秀雄節が炸裂する。悪意でとらえれば頑固体育会系親父のお説教とも言えるが、本書を通して読めば、上記の言葉が、

  • 世間にはびこる既成のものを壊すのは、世間並みの仕事と熱意ではなしえないということを実体験から吉田秀雄が腹の底から理解しているがゆえの発言であり
  • そのような偉業は個人では決してなしえず、組織的に取り組まなければ達成できないこともこれまた腹の底から理解しているがゆえに、電通という組織の力を全体として底上げしようという熱意が発言の強烈さとしてつい表出してしまう

という2点が良く理解できる。

  • 広告代理業という役割を超えて、民間ラジオ放送、テレビ放送という事業創出に腐心し、多大な貢献をしたこと
  • 広告代理業を単なるスペースブローカーから定量的な市場調査に根ざしたマーケティング活動を担うコンサルティング会社へ進化させたこと
  • モノづくり大国日本において、サービスとは何ぞやということを早期から考え抜き、日本発の巨大サービス企業を構築したこと
  • メディア過多の状況に転化した際もそれをいち早く見抜き、市場調査と販売計画策定支援というような電通のバリュー・プロポジションを明確にしたこと

など、その功績をあげればきりがない。そして、その功績は経営者としてのスマートさからのみ生まれたわけではなく、「先駆者として自ら先駆したものもさえ壊し続け、社会をよりよくするために前に進み続けるんだという姿勢」「鬼と言われるほどに気迫に満ちた自己研鑽と仕事への情熱」から生まれたものなんだということが痛いほどわかった。そんな吉田秀雄の先駆者としての姿勢と闘魂に興味のある方は是非ご一読のほどを。

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