Thoughts and Notes from CA

アメリカ西海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

『ヒルズ黙示録・最終章』の3つの物語

ヒルズ黙示録・最終章 (朝日新書)

ヒルズ黙示録・最終章 (朝日新書)

本書は下記の3つの物語から構成される*1

  • 「日本のコーポレート・ガバナンスの改革の旗手」と「狡猾に利益のみを追求するファンドマネージャ」という2つの顔を持っていたが、様々な環境変化・しがらみの波にまかれ、自らその使い訳ができなくなり、ついには東京地検に起訴され、ファンド解散までに追い込まれる村上さんの物語
  • 事業の着眼点は悪くないものの、収益性のある事業構築能力に今ひとつ欠け、「自社株売却の売上・利益計上」、「現預金の売上への付け替え」などの手法に手を染め、転がり落ちていったしまった、堀江さんを中心としたライブドア経営陣の物語
  • ライブドアと同様に功を急ぐあまり、宮内さん・中村さんの特別背任(同7年以下)・横領(同10年以下)を見逃し、堀江さん主導の証券取引法違反(懲役5年以下)事件を作り上げるという本末転倒の「粉飾起訴」に手を染めた東京地検特捜部の物語

もちろん、それぞれが独立した形ではなく、互いに複雑な程に絡み合う様を、あふれ出る程の具体性で描かれており、読み物としては相当面白い。前作の『ヒルズ黙示録』も魑魅魍魎系スーツ族の饗宴という生々しさがあったが、本書も負けず劣らずといった感じ。
拝金主義反対と主張するのみで深堀り感に欠く軽薄な新聞・テレビ報道にうんざりしていたり、反エスタブリッシュメント風をふかしてライブドアの技術力を礼賛する反面、実際に彼らの実施した会計処理の何が悪いか*2をきちんと理解しようとしないBlogoshpereの風潮に疑問を感じたりしている人にはお勧めの一冊。


読み物としては面白いが、この本から自分が学びとれるものは何だろう、とあれこれ考えるに思い出したのが『ハッカーと画家』の下記の話。

2つの選択肢がある場合、難しいほうを選べ。・・・<中略>おそらく、選択肢があって一方が難しい場合、たぶんあなたの怠惰さがもう一方の選択肢を持ち出したに違いないからだ。心の底では、何をすべきかを知っているんだ。
ハッカーと画家』 〜富をつくること〜 P.107

三者に一貫して言えるのは、簡単な選択肢と難しい選択肢がある中で、簡単な方を選んでしまったということ。
東京地検はさておき、村上さんやライブドア経営陣を怠惰ときってすてるのはあまりに酷な話だが、「日本のコーポレート・ガバナンスの改革の旗手としての使命を貫く」、「短期には薄利ながらも新しい事業を着実に育成する」という難しい選択肢から、色々理由をつけて目をそむけ、安きに流れてしまったことは否めない。


一方で、わが身に置き換えて考えるに、安きに流れないことは、とても難しいこと。自らに課しているターゲットが重ければ重いほど、ビジネスマンとして「数字」という結果をだすということに真摯であればあるほど、安きに流れる誘惑は思いのほか大きいのも事実である。
本書を悪事に手をそめた自分とは違う「大馬鹿者」の物語として読むこともできるが、おもーい数字を背負って、結果を出すことにまい進している一ビジネスマンとしては、対岸の火事ではない「自分もその甘い誘惑と戦いながら、常に難しいほうを選び続けなければならないんだ」、そんな自覚を強く持たなければならないんだと改めて思った。

*1:なお、三者三様に悪事に手をそめているが、本書のトーンに従い、悪い順にならべると、「東京地検ライブドア経営陣→村上さん」という順番になるだろう。

*2:本書の補足として"なるほど・・・これが「粉飾」ということですか"を読むと、よりきちんと理解できる

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