Thoughts and Notes from CA

アメリカ西海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

カジュアルな語り口の割りに残酷な本

「ヒューマン2.0―web新時代の働き方(かもしれない)」を読んだ。

ヒューマン2.0―web新時代の働き方(かもしれない) (朝日新書)

ヒューマン2.0―web新時代の働き方(かもしれない) (朝日新書)

タイトルに"(かもしれない)"なんて入っているあたりがいかにも渡辺さんらしい。
読んだ一番初めの感想は、「よくこれだけの機知にとんだ"キャリア小噺"を集めたな・・・」、というもの。ほぼブログそのままのカジュアルな語り口で、微妙なひねり具合で様々な"キャリア小噺"が展開されている。飲み会で"おもしろシリコンバレー噺"を渡辺さんから直接聞いているようで、なかなか楽しめた。
その一方で、軽いタッチの表現でありながらも、何気に個々のメッセージの裏づけ、根拠となる、統計情報、多くの事例・実例が提示され、キャリア論でありがちなくどいお説教ではなく、ロジックの立て方などがきちんとしているところはさすがコンサルタントといった感じ(偏見か・・・)。


しかし、コミカルなタッチの語り口のわりに、本書の提言はある層には非常に残酷な話が多い。
例えば下記の話。

高付加価値産業が、製造業から、よりアイデアや知恵に基づくものへと移るにつれ、仕事での個々人の能力差より大きくなってきている。世界一足が速い人でも一〇〇メートル一〇秒をちょっと切るくらいだが、相当運動神経がない人でも二〇秒あれば一〇〇メートルを走れる。人間の身体能力差はせいぜいそんなもの。しかし、「考える」という作業の能力差はとんでもなく大きい。人の二倍働いても収入が一緒、というなら我慢できたかもしれないが、人の一〇倍成果を出しても収入が一緒なのに耐えられる人は、果たしてどれだけいるのだろうか。

テクノロジーの進歩によりオフショアリングが可能になったため、かなりフロントを走る先進国で働く者は今まで以上に知識労働にシフトしていくことが求められるだろうということを暗に言いつつ、上記のように知識労働者の間では、実力さ10倍以上は容易につきうるので、その能力、生産性に応じて報酬も大きく変動していくことは不可避ではないかとの提言がある。
「チームワーク重視」、「格差社会反対」、「品格」などを掲げ、自己都合で成果主義に反対する人に対して、上記の「一〇〇メートル走」の例は、いやおうなく押し寄せてくるであろう変化を予感するに十分なほどわかりやすく、非常に残酷だ。


そして、本書は自己都合で成果主義に反対する人だけでなく、成果主義が整備されていないが故の自分の不遇を嘆く人にとっても同様に残酷。一〇〇倍くらい成果に差はあっても給料は同じという不幸な事件が日常的におこる日本において、居酒屋には「文句による漏電」で発散をしている若者があふれかえる(もちろんそれ以上にすごいパワーで漏電しているおっさんはもっと溢れている)。「モノは試しでシリコンバレーで働いてみる」というパスを実際に提示し、そのためにクリアすべき条件までわかりやすく指南することにより、「本当に今の会社が嫌で自分の実力が正当に評価される環境で働きたいと思うならシリコンバレーで働いてみればいいじゃん」と本書は語りかけているように感じられる。「漏電発散型の若者」にはある種残酷な話だ。


まぁ、人のことはさておき、サンノゼ移住を目指す私には(厳密に目指しているのは、ナパバレー・カーメルなどへのアクセスの非常によい、気候のいい地域)非常に参考になる情報が多かった。家族持ちの身分としてはまずは当地における居住費・生活費などの月ベースのキャッシュフローなどを試算することが第一歩と感じた。

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