毎回楽しみしている磯崎さんの『ネット・エコノミー解体新書』の今回のテーマは"アマゾンとロングテールに関する“大きな勘違い”"。
報道などで、Amazon.com(アマゾン)が「ロングテール」の代表例として取り上げられることが多いですし、世の中では、「web2.0」→イコール「ロングテール」→イコール「かっこいい、最先端」といった文脈で語られることが多いので、「ぉぃぉぃ、ちょっとまってよ」ということで。
ネット・エコノミー解体新書(第4回) アマゾンとロングテールに関する“大きな勘違い”
という総論には賛成なのだが、いくつかの"小さな"勘違いも生み出してしまいそうな気がしたので、気になった部分についていくつかコメントさせて頂きたい。
アマゾンはグーグルやイーベイよりも売り上げは大きいが、粗利率はたったの24.0%。ネット以前の通販は、健康器具、健康食品、下着など、粗利率が5割とか7割ある商品でしか成立しえなかった。2割ちょっとの粗利の商品でも「通販」できるようになったというのは、確かにネットやIT技術の画期的な成果だとも言える。
同じEC事業を営んでいても、手数料ビジネスで売買される物品の金額が売上原価に入らないeBayと書籍代を売上原価にいれているAmazonの利益率を比較するのは、両者の売上を単純に比較するのと同様に意味がない。Amazonの売上・売上原価は、eBayと比較すると出版社から仕入れる書籍代の分だけ両膨らみになっているため、この分をさっぴいて、ECの二大巨頭の収益率を比較できればもっと面白いと思う。
なので、「同じEC事業なのにeBayは高収益で、Amazonは低収益」と感じた方がいたらそれは勘違いだ。
ちなみに、日本で書籍や文具を扱う丸善の2006年3月期の連結売上高は834億円。アマゾンよりは1けた小さいが、粗利率は23.9%でアマゾンとほぼ一緒だ。・・・<中略>
書籍などのマーケットは、日本でも米国でも「縮小しつつある市場」であるという点にも着目する必要がある。右下がりのマーケットでは「バラ色の未来」は描きにくいから、参入したがる者は限られる。
むしろ効率の悪いロングテールの市場で、なおかつ小売という利益率の低いビジネスをしながらも、取扱品目を削減することにより利益率を維持しようとしている丸善と同様の利益率をあげていることがAmazonのすごさではなかろうか。
また、書籍販売というビジネスは、ヘッド部分は成熟市場かもしれないが、テールの部分もあわせて成熟市場とみなすことには疑問を覚える。今までの書店での書籍販売というモデルでは、構造的に出会うことのなかった筆者と読者が出会うことによって市場が創出されているという視点で見ると、ヘッド部分とあわせてひとからげに「縮小市場」とみなしてしまうのはミスリーディングだろう。以前、"ロングテールの潜在的成長率"というエントリーで触れたのだが、本当に注視してみないといけないのは、下記のポイントだ。
The important question, then, is this: Is the Long Tail going to get a lot bigger, or has most of the growth already happened?
故に、重要なことは、「ロングテールが今後も一層大きくなり続けるのか、もしくはインターネット効果によるロングテール市場の成長は殆ど終わってしまったのか?」ということだ。
Rough Type: Nicholas Carr's Blog: How large is the long tail?
なので、「アマゾンは大昔からあり、既に縮小均衡にはいっている市場で勝負をしている」と感じた方がいたらそれは勘違いだ。