Thoughts and Notes from CA

アメリカ西海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

史実としてのWEB 1.0時代

シリコンバレー精神 グーグルを生むビジネス風土』を読んだ。厳密には読んだのは1週間くらい前だが書評を書くのにどうも筆が重い。なんで、こんなに筆が重いのかと考えるに、本編に対するこれ以上ないくらいの「評」があとがきとして見事に展開されているため、どうも書きにくいということが原因。まぁ、そういう思いはあるが、率直に感じたことを書いてみたい。

シリコンバレー精神 -グーグルを生むビジネス風土 (ちくま文庫)

シリコンバレー精神 -グーグルを生むビジネス風土 (ちくま文庫)


インターネットの誕生からネットバブル崩壊までの時代を、IT革命の震源地であるシリコンバレーに軸足をおいて、同時代的につづった論考集に、「長いあとがき」が加えられた1冊。誕生から崩壊までの過程が生々しく進行形の形で描かれているため、WEB 2.0といった新しい潮流の真っ只中にいる我々に現在・そして未来を見通す視点を提供してくれる

フロンティアにおける「ゲームのルール」というのは、時代の潮流を読み込んで同時代的に作られるので、ルールというより仮説というほうが正確かもしれない。・・・<中略>
「売上げがわずか、しかも赤字、それでも事業プランが素晴らしければ公開して資金調達できる」というルールや、「さまざまなものを無料化してでも顧客を獲得しさえすれば、カテゴリーごとの寡占が生まれて、利益は必ず後からついてくる」というルールは、「先送りした問題は資金を投入しさえすれば必ずや解決される」という楽観によって支えられてきた。
シリコンバレー精神 グーグルを生むビジネス風土』 P.117〜118

インターネットバブル崩壊時の1つの要因として「前提としていたルールの誤り」という指摘がされているが、同時代的に作られつつある新しい「ゲームのルール」を目の前にしている我々にとって上記の言葉は重い。
絶対的なルールは存在せず、同時代的に作られている仮のルールの下で激しいプレイを展開しなければならないということを強く理解するとともに、サッカーでキーパー以外の選手でも手を使えるようになるなんてレベルのルール変更がいつ起きてもおかしくないことを強く認識することが求められる。


もちろん、プレイヤーにとって重要なのは、「絶対的なルールが存在しない危ういゲームには参加しない」ということではなく、現在のルールに基づきプレイをしながらも、あるべき本当のルールは何なのかについて思考を停止させないこと
「カテゴリーごとの寡占を築くことに躍起になる」ことと、「ロングテールに注目しそこから収益をあげることに注力する」、「群集の叡智を信じ、特定の才能ある人間よりも群集の意見を重用する」、「参加型アーキテクチャを構築するために人々のアテンションを集めることに腐心する」ことがどれ程異なるのか、絶えず懐疑の視点を持ち、検証をすることが必要なことを再認識させられる。


歴史は繰り返すなんてことがよく言われ、産業革命とその黎明期の混乱を語るのに自動車・鉄道・PCバブルの時のことがよく例としてだされるが、直近でおきたWEB 1.0時代という歴史を学ぶ上で大事なエッセンが本書には多く盛り込まれている。
本書に対して「今となっては当たり前」、「内容が古い」、などの評価もいくつかあるが、インターネットの誕生からバブルの崩壊までを自分の言葉で総括をできそうもないという方(そんな人どれだけいるのだろうか・・・という感じはするが)は、本書をじっくり読み込むことをお勧めする。
本書の中に書かれている1つ1つのことについて、「今からみれば当たり前」、「今から見れば的はずれ」、「今もってなお斬新で本質をついている」、「今もってなお明らかになっていない」などのことを1つ1つ整理し、自分の中で消化していくことは、「シリコンバレー精神」で現在・未来のインターネットの世界の動向を読み解く一助になることは間違いない。

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