「編集」の機能は世界中のブログやSNS、掲示板などに任せ、YouTubeは動画のホスティングと最低限のタグ付与など、Folksonomy機能だけ持てばいい、という割り切りだ。
R30: YouTube−Google型企業になるための4つの法則
R30さんのYouTubeについてのエントリーで上記のような記述があり、各ウェブ・サービスについてあれやこれや考える時は、バリューチェーンの中のどこにそのサービスが位置するかについてもきちんと考えるのは大事なことだなぁと感心した。
なので、軽いタッチでCGMのバリューチェーンについて考えてみたい。
1. 一般的なバリューチェーンのはなし
バリューチェーンは、事業活動を機能ごとに分解し、どの部分(機能)で付加価値が生み出されているか、どの部分に強み・弱みがあるかを分析し、事業戦略の有効性や改善の方向を探るものである。
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『MBA 経営戦略』 〜第2章事業戦略 P.109〜
教科書には上記のようにある。
消費者がなんらかのコンテンツを作成し、それが別の消費者の手元に届くまでに、どんな機能が存在し、あるウェブ・サービスはどこの機能で付加価値を生み出しているのか、はたまたどこであまり付加価値を生み出せていないのかを整理する道具としてCGMのバリューチェーンがあるととらえてことができる。
2.CGMのバリューチェーン
えいやぁ、で書くと下記のような感じか。
まず、支援活動の部分について気になるところを見ていく。
- システムプラットフォーム構築・管理
メーカーが工場を持つように、ウェブサービスが実際に動いたり、情報を格納したりするためのHW/SWなどのシステムプラットフォームの存在は必須。Googleのように拡張性・パフォーマンス共に抜群に高く、かつ低コストのシステムプラットフォームを強みにする会社もあれば、Amazon S3などを使用してアウトソースしてしまうという手もある。
- 人材・エンジニア管理
エンジニアという知識労働資本を最大化するために、働く環境を整備したり、効果的なリクルーティングを行ったりすることは、付加価値の重要な源泉。「研究・サービス開発」のパフォーマンスを大きく左右しうる。
- マーケティング
消費者の作成する個々のコンテンツのマーケティングは「分類・重み付け」でなされるが、そのウェブサービスそのもののプロモーションも必要となり、それは主活動というより、支援活動に分類されるほうが適切。
- 法務
法整備がきちんとされていないが故に、その未整備に甘んじていると事業の前提が一発で覆るという大きなリスクをはらむのが、ウェブサービス事業の恐ろしいところであるのは、ナップスターの例をみれば明らか。
既存法律に抵触していないか、将来的な法制度変更への耐性はあるか、既得権益者から訴えられないかなど、規模が大きくなるにつけ、法務の強さが競争力の重要な下支えになることは容易に想像できる。
思いのほか支援活動の部分が多くなってしまったが、
- 内製化するのか、アウトソースするのか、とか
- 事業規模の拡大にあわせて、その切り替えをいつ実施するのか、とか
- 他の機能を持つ会社と如何に連携するのか、とか
考えなければならない、悩ましい問題はつきない。
次に主活動。それぞれの名称がダサいのが気に入らないが勘弁願いたい。
- 生成
コンテンツを作り出すところ。YouTubeだったらビデオ制作だし、Flickrだったら写真をとるところがここに該当。基本的には消費者主導で実施されるが、使用感のより生成ツールを提供し、次の「蓄積・アップロード」への呼び水とする戦術も考えうる。
- 蓄積・アップロード
消費者の作成したコンテンツをウェブ上に格納するところ。YouTubeに映像をアップロードしたり、自分の書いたブログをポストすることがここに該当。質の高いコンテンツを、如何に大量に蓄積するかがこの機能で生み出す付加価値を左右する。
ただ、そこに持っていくための施策はアップロード・ダウンロードの使用感の高さ、価格の安さ、マーケティングの巧みさ、プラットフォームの堅牢さ、など多岐にわたる。コンテンツの総量が閾値を超えるまでの間にどれくらい大胆に金銭的な資本を投下することは相当重要なように思われる。
- コンテンツ分類・重み付け
無数のコンテンツの選り分け、どのコンテンツに価値があるのかの重み付けをするところ。はてブでタグが付与され、人気エントリー・動画が抽出されたり、Googleで入力された検索ワードに最も適した情報が表示されるなどはここに該当。玉石混交の中から、如何に「玉」を素早く、パーソナライズされた形で抽出するかが肝となる。
- 配信・ダウンロード
ある消費者の生成したコンテンツが、別の消費者の手元にいよいよ届くところ。YouTubeで直接映像を見たり、Livedoor Readerでブログを読んだりすることがここに該当。
「コンテンツ分類・重み付け」というフィルタリングを通過して、尚大量にあるコンテンツを如何に高い使用感でさばくかが重要なことは、Livedoor Readerの人気からもうかがえる。個人的にはYouTube Viewerなるツールが動画のところに出現し、ピンでつけた映像を3倍速くらいでさくさく見れるツールがでてくれると嬉しい。
尚、配信と書いてみたものの、情報の消費者が能動的にダウンロードすることが殆どで、受動的に受信することは殆どないように思われる。
3.バリューチェーンへのウェブサービスのマッピング
これまた、えいやぁで既存のメジャーなCGM関連ウェブサービスをバリューチェーンにマッピングすると下記のような感じになる。
コンテンツの蓄積をしているサービスは青、蓄積していないサービスは赤で表記し、一応区別をしている。主活動の縦軸・横軸のカバーリングの広さをサービス・会社別に見てみるとなかなか面白い。はてなの幅広さもさることながら、本当に幅広くカバーすることが大事なのかという問題もすけてみえてくる。
4.最後に
勢いで書いたエントリーなので抜け漏れ、勘違い、そもそも根本からバリューチェーンを誤解している、などの批評は甘んじて受けるので、遠慮なく・・・。
また、大分長いエントリーになってしまったため、何某かのまとめが必要じゃないかと思いながらも、まとめに正直苦慮しているが、『戦略サファリ』という書籍からの引用で強引に締めくくりたい。
分析技法を通して戦略を開発した者はいないということだ。有益な情報を、戦略作成プロセスに提供した者は確かにいるし、既存の戦略を基に将来の戦略を推定したり、もしくは競合の戦略をまねた者もいる。しかし、分析技法をつかって戦略を開発した者は絶対にいない。・・・<中略>「戦略産業の少しばかりダーティな秘密は、戦略想像に関する理論など存在しないことだ」。戦略サファリ―戦略マネジメント・ガイドブック (Best solution)
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『戦略サファリ』 〜ポジショニング・スクール P.116〜
要するに、上記のようなことは考えを自分なりに整理するためには役に立つが、実際に新しいウェブサービスを開発して起業しようとしている人が自社の戦略を策定する上でそのまま使用するにはとても耐えないということ。身も蓋もないまとめだが、創業期の戦略というものは枠にあてはめて一丁あがりというものでは決してない(もちろん創業期でなくてもそうだが・・・)。変にWEB 2.0バブルを助長することを懸念してのことなので、ご理解頂きたく。