Thoughts and Notes from CA

アメリカ西海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

eBayの本当の功績

eBayは言わずと知れたインターネットのオークションサイト。最近ではもっぱら個人オークションに限らず、eコマースのプラットフォーム企業となり、AmazonYahoo!Googleと並んでインターネットの4大勝ち組企業という名声をえている。インターネットバブル時代には、「(こちら側)で〜する」ということを「インターネットで〜する」という風に単純に置き換えたサービスが乱発したが、その中で「インターネットで本を売る」、「インターネットでオークションをする」という2つのサービスが結果として勝ち残ったのは単なる偶然ではなく、「あちら側」で商機をつかむに至った理論的なバックボーンが必ずある。
Amazonの成功は「ロングテール現象」という理論で説明がされ、最近非常に注目がされている。一方で、ロングテール現象」のように同じような成功企業であるeBayの成功を端的に説明する言葉はあまりない。もちろん、eBayで個人が出品しているものは決して売り筋にはなりえない「ロングテール」のかなり先端に位置するもので、その成功は「ロングテール現象」という言葉でも説明可能であるが、「ロングテール」を語る時にeBayが語られることは少ない。Chris Andersenが初めに引き合いにだしたのがAmazonだからという理由も考えられなくもないが、あまり話しにでない理由はeBayの成功を語るにはもう少し別の適切な言葉が必要だからのように思われる。

フューチャー・オブ・ワーク (Harvard business school press)

フューチャー・オブ・ワーク (Harvard business school press)

同社は店員を大量に雇うことで、わずか八年間で驚くべき規模に成長したわけではない。通常の小売会社で店員(そして、買い手、商品担当、マーケティング担当、荷送り人)のすることを、イーベイでは売り手がおこなっているのである。つまり、実質的には、数十万人のフリーランスの小売商人として働けるようなインフラを提供しているのだ。

フューチャー・オブ・ワーク』 〜組織外のマーケット〜 P.117

eBayのビジネスモデルについて『フューチャー・オブ・ワーク』では上記のように語られている。で、「数十万人のフリーランスの小売商人が働くインフラ」が社会に提供されることの本当の意味は何かを考えるに、「個人の家に眠っていた不要なモノを商材として蘇らせ、それに価値を感じる人の手元に届けた」ということももちろんあるが、それ以上に「放っておいたら消失してしまうほど細切れになった個人の自己実現への意欲が形になる場を提供した」ということが何よりも大きいと思う。別の言い方をすると、eBayはそのビジネスモデルをして「個のエンパワーメント」により「社会全体をエンパワー」した初めてのインターネット企業ということはできないだろうか。


「細切れ」という言葉で言わんとしていることをもう少し説明したい。
仕事で自己実現をするには、時間か、能力のいずれかが必要。
フルタイムで仕事に集中できる時間があれば特段才気に溢れなくても楽しくやりがいのある仕事をして、自己実現をすることはできる。別に自ら起業までしなくとも、日々の仕事の中で充実した時間を過ごすことはできる。
また、高い能力やスキルがあれば、フルタイムで働かなくても、仕事を通じた自己実現は可能だ。顕著な例で言えば、プロ野球選手はオンシーズンは年間の半分であるが、彼らはボールを投げる、打つということについて非凡な才能があるが故に、働く時間は少ないが、その間に生活に必要な報酬をえるだけでなく、素晴らしいプレイをしてファンをひきつけることにより、自己実現をしている。


「時間」か「能力」のいずれかが十分にあれば、個人の自己実現の意欲は、形となって世に表れる。
ただ、時間が細切れになればなるほど、また能力が低くなればなるほど、仕事を通じた自己実現は難しくなる。
例えば、世の多くの女性が、キャリアを積み重ねることと結婚をして家庭にはいることに悩むのは、その点がネックになっていることが大きいと思う。家庭を気にせず、フルタイムで自分の好きな仕事に打ち込むことができれば、自分の好きなやりがいのある仕事を通して自己実現できるが、結婚をし、子供を育てながら、その合間に自分の好きな仕事をすることは全員にできることではなく、女性が結婚を機に、仕事に対する意欲をうちにしまって専業主婦になるケースは非常に多い思う。


私の周りに臨月直前まで徹夜で仕事をし、出産後1ヶ月で職場復帰を果たし、2児の母としてばりばり働いている人がいるが、そんな人は一部の例外でそこまでの情熱をもって仕事を頑張ってしたいとおもう女性は少なく、殆どの方の自己実現への意欲は、家事・子育てというそれ以外の要素によって細切れになって、世に形として表れることなく、消えていってしまうことは多いのではないか。仮に家事・子育て以外に10%の時間を割くことができたとしても、フルタイムの時と比較して10%の仕事ができるかというとそんなことはなく、その時間はほうっておかれて消失してしまうのが常だろう。


そんな、自己実現への意欲をうちにしまっている人たちに「小売商人がとして働くためのインフラ」を提供しているのがeBayだ。そういった「個のエンパワーメント」を通して、「細切れになり消失してしまいそうな個人の自己実現への意欲」が消えることなく、世に形となって表れることの社会における意味は大きい。「主婦がネットオークションにはまる」なんて表現がよくされているが、どちらかというと「エンパワーメントされた個人が活躍の場をえて、小売商人としてビジネスをすることにより自己実現を果たしている」と言ったほうが適切だろう。


eBayがかき集めたのは、個人の家に眠る不要なモノだけでなく、細切れになった個人の自己実現への意欲であり、それこそがeBayの本当の功績である。

「次の十年」を象徴する大きなトレンドとして、「個のエンパワーメント」というテーマは絶対に避けて通れないのだ、ということをいくつかの記事から強く感じた。
「次の十年」のキャリア構築と「個のエンパワーメント」

まさにその通りだと思う。そして、eBayこそがネットワークとテクノロジーの力を使って、インターネット企業で「個のエンパワーメント」を実現するようなサービスを一番乗りで提供し、大成功を収めた企業だと思う。それだけ経営者が巨額の富をえたかはわからないが、「社会全体をエンパワーメント」したその功績を考えるに、どれだけ巨額であってもそれは微々たるものだと私は考える。

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