"「次の十年」のキャリア構築と「個のエンパワーメント」"というエントリーで「個のエンパワーメント」という言葉がでてきた。
- ブログを使用することにより、マスメディアに属さずとも自分のメッセージを不特定多数の人に発信することができるようになった
- SNSを使用することにより、大企業に属さずとも、能力・魅力があれば価値の高い人脈を築くことができるようになった
情報技術の進化が、様々なコストを低下させ、大きな組織に属さずとも個人のできることに広がりがでてきた、そんなことをして「個のエンパワーメント」と言っているのだろう。
以前読んだトーマス・アローンの『フューチャー・オブ・ワーク』は、言葉の使い方は違えど情報技術の革新が可能にした「個のエンパワーメント」というテーマに多くの紙面をさいている。復習もかねて本書の内容を引用しながら、「個のエンパワーメント」について自分なりに整理してみたい。
またもうひとつの―漠然とはしているが―集中化された組織が払う代償は、個人の自主性の喪失である。狩猟採集民の群れから階層制農耕社会への移行は、リーダーを除いたすべての人に、自分たちの自由の一部を―ときにはそのほとんどを―犠牲にすることを求めたのだ。
『フューチャー・オブ・ワーク』 〜驚くべきパターン〜 P.55
まず、集中化、即ち大きな組織を築くことにより、人類は「個」ではとてもなしえない「力」をえてきたが、それは同時に「自分たちの自由」を手離す行為でもあるとトーマス・アローンは主張する。
集団としては大きな力はえるわけだが、それは「個」としては「自分たちの自由」を少なからず手離すことにつながる、即ち「集中化によるエンパワーメント」と「自分たちの自由」はトレードオフの関係にある、そんな考えが本書の1つのメッセージだ。
私たちの祖先が突然に方向転換をして、分散化を選んだ理由は何か、という疑問への答えは次のとおりである。印刷機などの新しいテクノロジーによって、情報伝達コストが充分に下がり、人々がほしいと思うふたつのものの双方を手離さずにすむようになったからだ。
人々は大組織の経済的、軍事的優位性を享受しながら、同時に遠い昔に手離した自由と柔軟性のいくらかを取り戻した。そして、これから見ていくが、同様の可能性が今、ビジネスの世界にも開かれているのである。
『フューチャー・オブ・ワーク』 〜驚くべきパターン〜 P.49
次に、「情報技術の革新」は、集中化によって失われた「自分たちの自由」を、「大組織から享受できる力」を大きく損なわない程度に手にすることを可能にした、とトーマス・アローンは主張する。
言い換えると、「集中化によるエンパワーメント」を追求すると「自分たちの自由」は下がるというトレードオフは原則として変わることはないが、「情報技術の革新」は、「力」をえるために過度に集中化して「自分たちの自由」を失わずとも、「個」としてより大きな「力」をえることを可能してきた、ということとなり、これも本書の重要なメッセージの1つだ。
上記のような主張を展開しながら、本書は最後にこうしめられる。
一方、二十一世紀の分散化された組織は前任者とは違って、大きいことと小さいこととの両方の利点を享受できる。個人に大いなる柔軟性と自由を与えると同時に、歴史上かつてないほどの規模で世界中の人と活動を統合できるのだ。この方向に働く経済とテクノロジーの力はとても強力であり、この結果を確実に起こりうるものにしている。
『フューチャー・オブ・ワーク』 〜エピローグ〜 P.255
「個のエンパワーメント」という考えは我々の祖先が裸で獣をおっかけていたころからある考えであり、人類は
- 「集中化によるエンパワーメント」と「自分たちの自由」の喪失
- 「情報技術の革新」と「個のエンパワーメント」
そんなことを繰り返し、徐々に集団としても個人としても大きな力を手にしてきた。
ただ、ずーっと繰り返してきたことではあるが、かつてないほど「個」はエンパワーされているということもまた真実だ。
今目の前にある、またこれから手にすることができる技術革新によって、サービスを享受する立場としては
- 組織に属することによってしかえられなかったどんな「力」を手にすることができるのか
- どんな「自分たちの自由」を取り戻すことができるのか
ということを考えることが大事であるし、サービスを提供する側は、自分のサービスにより
- 組織に属することによってしかえられなかったどんな「力」を提供することができ
- どんな「自分たちの自由」を取り戻させることができるのか
そんなことを考えるのが大事なのだろう。
最後に
"『「みんなの意見」は案外正しい』の読書上の注意"というエントリーで多くの方からブックマークを頂き、『ウェブ進化論』効果による「Wisdom of Crowds」への関心の高さがうかがえる。だが『ウェブ進化論』の次に読むなら、個別論点の『「みんなの意見」は案外正しい』より、読みごたえはあるが骨太で扱う範囲も広い『フューチャー・オブ・ワーク』の方が私はお勧め。もちろん、本書の中にも「Wisdom of Crowds」や「予測市場」についての説明もある。参考まで。
フューチャー・オブ・ワーク (Harvard business school press)
- 作者: トマス・W.マローン,高橋則明
- 出版社/メーカー: 武田ランダムハウスジャパン
- 発売日: 2004/09/28
- メディア: 単行本
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