市場や投票制度のように、みんなが持っている私的情報を集約するのではなく、情報不足の状態で次から次へと判断が積み重なるというのが情報カスケードである。
- 作者: ジェームズ・スロウィッキー,小高尚子
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2006/01/31
- メディア: 単行本
- 購入: 13人 クリック: 216回
- この商品を含むブログ (266件) を見る
情報カスケードが抱える根本的な問題は、ある時点を過ぎると自分が持っている私的情報に関心を払う代わりに、周りの人の行動を真似することが合理的に思える点にある。みんな自分の知っている情報に基づいて判断していると思っているけれど、実際には先人が知っていると自分が思い込んでいる情報に基づいて判断している。そのため、集団は誤った判断をしてしまう。
『「みんなの意見」は案外正しい』 〜第3章 P.70、71〜
という記述が『「みんなの意見」は案外正しい』にあった。この引用だけさっと読むとはてブの「ホットエントリー」はものすごく情報カスケードがおきているんじゃないかという気が直感的にするが、理解を深める目的で細かく掘り下げて考えてみたい。
まず、「自分が持っている私的情報に関心を払う代わりに、周りの人の行動を真似することが合理的に思える点にある」とある。
WEBでの日々の情報収集の中で「自分が持っている私的情報」とは、RSSリーダーや自分がいつも見ているニュースサイトあたりが主だったものになるだろう。
ただ、WEB上の膨大な情報の中から、「私的情報」のみで自分にとって価値のある情報を引き出すことはあまり合理的でないため、「他の人が注目をしている」、「他の人価値があると」意思表明したサイトからも情報をえようという力が働く。一人の目玉でWEBを見て回るより、不特定多数の目玉で見て回った結果、価値があると皆が判断した情報を見る、即ち人の真似をする(特定のページを見るという点において)ほうが合理的のように思えるる。多くの人がはてブの「ホットエントリー」をみるのは情報収集上の合理性ゆえだ。
次に、「自分の知っている情報に基づいて判断していると思っているけれど、実際には先人が知っていると自分が思い込んでいる情報に基づいて判断している」とある。
「ホットエントリー」の中にも、自分の興味のある情報とそうでない情報があり、自分にとって価値があると思った情報にはブックマークをつけておき、再読が可能な状況とする。自らブックマークをつけるという行為をして、単純に人まねをしているわけではなく「自分の知っている情報に基づいて判断している」、皆そう思っている。
だが、「ホットエントリー」にあがっている内容は所詮「先人が価値あると判断した」と情報であるにすぎず、本当にWEBの中でそれが相対的に価値の高い情報かどうかは誰も保障はしてくれない。皆が「ホットエントリー」へ依存すればするほど、「先人が知っていると自分が思い込んでいる情報」の思い込み度合いが強くなり、「ホットエントリー」の相対的価値が低くなる。
皆が私的情報の収集とそれに基づく判断を怠ったら、「ホットエントリー」の相対的な価値は下がる、ということはどうも正しそうだ。以上のことから、「ホットエントリー」は情報カスケードが起こっているかもしれないと注意を払うことのほかに、「私的情報」に厚みを持たせるために下記のようなアクションをとることが必要なのだろう。
こうみるとはてなもツールとしてはそれなりにそろっているように見える。重要なのは、新しくでるツールの特性を理解した上で、「私的情報」の収集と合理性の確保というバランスをいかにとるかについて知恵をしぼる、ということなのだろう。