- 作者: ジェームズ・スロウィッキー,小高尚子
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2006/01/31
- メディア: 単行本
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1. 言葉の定義をまずはおさえる
解決すべき問題は「認知/調整/協調」の3つであり、「Wisdom of Crowds」が機能するためには「多様性/独立性/分散性/集約性」という条件が満たされなければならないというのが本書の主張。
だが、
- それぞれの言葉の定義がされていたり、されていなかったりする
- それぞれの言葉を扱っている章の冒頭で明示的に言葉の定義があるわけではない
- 漢字2文字・3文字にしてしまうと何を意味しているのか意外とわかりずらい(特に分散性など)
の3つの理由から私はそれぞれの言葉が使われている文章がいまいちすっと頭に入ってこなかった。なので、読む前にある程度言葉の意味だけおさえた方がわかりやすいと思う。
言葉 | 定義 | 例 |
---|---|---|
認知 | 正しい答えが必ず見つかる問題 | 今年新しいプリンタは何台売れるか? |
調整 | 他人の行動も加味する必要のある問題 | ぶつからず人ごみをどうやって歩くか? |
協調 | 自己利益だけ追求すると全体の利益を損なう問題 | 税金負担 |
言葉 | 定義 | 英語表記 |
---|---|---|
多様性 | 集団の中のそれぞれの人間が自分の私的な情報とそれに基づく意見を持っており、突飛なものも含め色々な意見がある状態 | diversity of opinion |
独立性 | 周囲の人の意見に影響されずに集団の中の人がそれぞれ意思決定できる状態 | independence of members from one another |
分散性 | 集団の中のそれぞれの人間がローカルで具体的な情報に基づき意思決定をする状態 | decentralization |
集約性 | 多様な情報や意見を集め、うまく集約する仕組やプロセスがある状態 | a good method for aggregating opinions |
参考:
WikipediaのWisdom of Crowdsの項目
Zopeジャンキー日記 :群集がいつも賢いとは限らない 「Wisdom of Crowds」の成立条件
2. 第1部の章立てを理解する
本書の構成について一言述べておく。事例もふんだんに取り上げているが、前半部分はおおむね理論篇と言って差し支えないだろう。認知、調整、強調の三種類の問題にそれぞれ1章ずつ割いており、そのほかにも集団が賢くあるために必要な条件、つまり多様性、独立性、分散性をとりあげる。
『「みんなの意見」は案外正しい』 〜はじめに P.15〜
と、丁寧な構成についての説明がなされているが、目次は意外と丁寧ではない。「認知、調整、強調の三種類の問題にそれぞれ一章ずつ割いており」と言っている割にどの章でどのトピックが取り扱われているのか一目でわからない。
章立て | メイントピック |
---|---|
第1章 集団の知恵 | 総論 |
第2章 違いから生まれる違い | 多様性・認知 |
第3章 人まねは近道 | 独立性 |
第4章 ばらばらのカケラを一つに集める | 分散性・集約性 |
第5章 シャル・ウィ・ダンス? | 調整 |
第6章 社会は確かに存在している | 協調 |
おそらく上記の通りと思われる。認知については「第2章が認知について取り上げている章だ」と言えるか微妙だが、それ以外思い浮かばない。
また、メイントピックは上記の通りだが、第2章にも分散性・独立性の話がでてきたり、第3章に分散性の話がでてくるなど、相互に関係しあう内容だけにメイントピック以外の箇所でもそれぞれの話がでてくるので、その点も注意が必要。ひとえに私の理解力の低さのせいであろうが、途中で「この章は何についての章だっけ?」とか、「多様性の一番の特徴はなんだっけ?」などとまることが多かった。
3. 統計学的な説得力のなさには目をつむる
これはAmazon.comの読者書評によく書いてあり、私も気になった点であるが、事例が沢山紹介されており、考える材料が沢山提供されているのは良いのだが、「その事例だけをもって言いたいことが立証できたんだっけ?」という疑問が頭に浮かぶことが多く、腹の底から論旨に納得することができないことがよくあった。
例えば、「見本市で雄牛の体重をあてるコンテストが開催された時に、その雄牛が1198ポンドだったのに対し、集団の予想は1197ポンドだった!集団すげー!!」という説明があるのだが、「同じことを100回やってみたが、誤差の平均は1.2ポンドだった」という例があると、「おぉ、集団すげー!」となるのだが、上記の本書の説明だけだと、「偶然じゃないの・・・?」という気持ちが少しでてしまい、腹におちるのを少し邪魔する感じがする。
ただ、個別の事例の学術的な立証の十分さはないにしても、あれこれ「Wisdom of Crowds」について考えるネタは沢山あるので、あまりその辺りを気にしすぎないのが読み進むコツなように思う。
4. 節ごとの要旨をおさえる
本書の中では、「節」という言葉は使われていないが、「章」の中身はさらに細かい固まりに分かれ、「1、2、3、4・・・」と番号がふられている。番号ごとにどんな内容について記載されているのか、タイトルがついているともっとわかりやすいし、読み返す時に楽なのだが、それがないので私の理解を困難にした。
第2〜4章はまとめながら読まないと理解が追いつかなかったので簡単なメモを作成しながら読んだ。以下にそのメモを記載するので、参考にして頂いたり、理解が十分でない点についてご指摘などを頂ければと・・・。
章 | 内容 |
---|---|
第2章 | 1.多様な選択肢があることが重要 〜八の字ダンス、自動車産業揺籃期〜 |
2.正しい選択肢を選ぶために多様な視点も必要 | |
3.専門性は意外と狭隘で専門家を信頼しすぎてはいけない | |
4.集団のまとまりが強いと多様な意見がつぶされやすくなる | |
第3章 | 1.集団は過ちを犯し、被害を大きくする 〜アリの死の行進〜 |
2.セオリーは集団的思考のミスを誘発する 〜アメフトの戦略セオリー〜 | |
3.情報カスケードは思考を停止する 〜プランクロード、ネジ〜 | |
4.重要な問題ほどローカルな情報で理知的な判断をする 〜新種のとうもろこし〜 | |
5.情報カスケードがおきないと判断は正しくなる 〜ビー玉の実験〜 | |
第4章 | 1.分散性だけでは問題は解決できない 〜アメリカ諜報機関とテロ〜 |
2.分散性を機能させるには、ローカルな知識の集約が重要 | |
3.分散性は多様性も生み出す 〜リナックスとマイクロソフト〜 | |
4.分散性と集約性がかみあった好例 〜アメリカ軍隊とリナックス | |
5.情報・判断の集約が大事 〜IEM(選挙結果予測市場)、PAM(政策予測市場)〜 |
以上、長々と書いたが、以上をもって本書が読むに値しないといっているわけではもちろんなく、「Wisdom of Crowds」を勉強する上では非常に参考になる本であることは間違いない。ただ、梅田さんの『ウェブ進化論』などでも非常に重要な考えと紹介されており、書店で手にとる方が多いと思うが、『ウェブ進化論』のわかりやすさと比べると読むのが結構ヘビーであり、私も苦労したため、いくらかでもその苦労軽減の役に立てればと・・・。