Thoughts and Notes from CA

アメリカ西海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

バブル論から考えるインターネット企業の価値

Nicholas Carrの"The supply-side boom"というエントリーの紹介したい。Chris Andersonが"The New Boom"というエントリーで、「最近のSilicon Valleyにおける盛り上がりはブームであって、決してバブルではない」と言っているのに対して、その結論及び、展開されているロジックには合意しつつも、大事なポイントを見落としているんじゃないの、と指摘している。

中身を細かくみていく。まずは冒頭でChris Andersonのエントリーのまとめを下記のようにしている(大体Nicholas Carrは引用しているエントリーのまとめからはいるが、結構適切にまとめられており、事前に読んでおくと引用エントリーも読みやすくなる)。

His case boils down to three points. First, the market for internet content and services is more mature than it was in the 90s - there are real rather merely theoretical customers out there. Second, the drop in prices for bandwidth and computing means that you don't need anywhere as much capital to launch an internet business as you used to. Third, and related, the lower capital requirements mean that entrepreneurs require less venture funding, which in turn means less pressure to make a quick and lucrative exit.
彼のエントリーは下記の3点にまとめることができる。

  • 90年代と比較しインターネットのコンテンツやサービスの市場がより成熟してきた。もはや理論上ではなく、現実の顧客がそこかしこに存在する。
  • 回線やコンピュータの価格が下落したため、以前とは異なりインターネットビジネスを立ち上げるのにそれほど資本が必要なくなった。
  • 多額の投資の必要性が薄れたことにより、起業家はベンチャーファンドが必要なくなり、その結果として、素早く多額のリターンをえるExitに対するプレッシャーが薄くなった。

要するに起業家が中身のあるインターネット事業を立ち上げることに専念しやすい環境が整ってきたということを言っているのだと思う。90年代は".com"をつけ「インターネットで〜する」会社であるということをアピールし、事業の中身はさておき、いかにセンセーショナルにIPOをするかということに多くの力がさかれたが、現在は起業家はより地に足をつけた事業運営をしており、熱気に頭をやられているということはないというところか。少し言い方を変えると投機的な行動への抑止力が以前より起業家サイドにはたらいていると解釈することもできるだろう。

Nicholas Carrは、上記のChris Andersonの指摘は認めつつも、下記のように大事なポイントを見落としていると指摘する。

But there's a flaw, or at least a missing element, in the analysis. Bubbles are simply a matter of supply and demand - too much demand (investor cash) chasing too little supply (investment opportunities). Anderson's article focuses entirely on the supply side.
しかし、上記の分析には欠陥、そこまではいかなくとも見落としているポイントがある。バブルとは単に供給と需要の問題である、言い方を変えると需要(投資家の現金)が少ない供給(投資の機会)を上回るとバブルが発生する。Andersonのエントリーは供給側にしか目を向けていない。

バブルとは、資産価格が実力以上に評価され、その実際の価値を上回って高騰することであるが、あくまで価格決定は需要と供給のバランスによって保たれるため、起業家の振る舞いだけに目を向けるのではなく、投資家の行動にも目を向けるべきだと主張しており、それは非常に正しい。確かにChris Andersonの上記のポイントは1点目はさておき、起業家が主体の事柄である。

Anderson, in other words, is making a rational analysis of an irrational phenomenon. The people that turn healthy booms into fragile bubbles are investors, not entrepreneurs.
別の言葉で言えば、アンダーソンは非合理的な現象に対し、合理的な分析をしている。健康的なブームをもろいバブルに変えてしまうのは、起業家ではなく、投資家である。

そしてさらに、需要と供給の両面に目を向けた時、バブルを起こす上でより影響があるのは投資家の加熱した投機的行動、即ち需要サイドであると主張する
確かに、起業家が多額の資本を集めるために資本市場をあおり、それが実際の価値以上にその企業の株式の価格の高騰をあおるという要素もあることを否定するものではないが(最近どこかで聞いたことのある話だし・・)、「実際の資産価値はさておき、株価があがるから、それを買うんだ」という熱気にやられた投資家がいて初めてバブルが発生するためより注視すべきは投資家の振る舞いである、という指摘は正しい。

そういう視点で見ると

Today, the typical exit strategy is to sell your startup to Yahoo! for a few million, not to maneuver for a rowdy IPO and an appearance on CNBC.
今日、典型的なExit Strategyは、乱暴なIPOやCNBSでの露出度を高めることをたくらむことではなく、Yahoo!に数億円で売却することである。

Chris Andersonは上記のように言っているが、Yahoo!に売却できる可能性のあるベンチャー企業に対する投資家の青田買いが加熱するという投資家の振る舞いにより投機熱に火がつくなんてことがおきるかもしれない。


繰り返しになるが、バブルとは資産価格が実力以上に評価され、その実際の価値を上回って高騰することである。よって、バブルであるか否かを考えることは、本質的な価値をそなえているかを考えることと同義と言ってよい。サイトのユーザ数やサイトへのアクセス数という企業価値測定の物差しの目盛が適正かどうか、インターネット広告市場という有限のパイに対し、それを争うインターネット企業の時価の総額がふりきれていないか、今はまだ考えがまとまっていないが、今後そんなことをもう少しつめることによって、インターネット企業の価値はどこにあるのかを考えていきたい。

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