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ktdiskのブログ

読んだ本の感想、所々の雑感、日々のあれこれを綴るブログ。

変化を志向する人を勇気づける本

デジタル音楽の行方

デジタル音楽の行方

既に何度かとりあげているが、『デジタル音楽の行方』を読み終えた。読後の第一の感想としては、「音楽業界の関係者だけでなく、デジタル技術の革新により社会をよくしようと志す人を勇気づける良い本だなぁ」というもの。

ITやデジタルネットワーク技術が音楽産業にどのような影響を与えるかをつまびらかにし、その影響をどのように捉えれば音楽産業にとってポジティブな状況に変えられるのかいくつかのプランを示し、止まらない流れに対して既存の音楽産業がいかに無駄な抵抗を行っているか指摘する
『デジタル音楽の行方』 〜解説 P.263〜

解説で本書のテーマが上記のようにまとめられているが正にその通り。ただ、一歩ひいて見てみるとあくまで素材が音楽であるというだけで、

  • 技術革新によって必然的に求められる変化に対し、あらがうエスタブリッシュメントがいることは歴史的に見て、なんら驚くべきことではないという立ち位置で
  • 昨今のデジタル技術の革新はどのような特性をもって、どのような変化を社会に求めているのか、または求めてきたのかを明らかにし
  • そのような変化にあらがうことはできないことは歴史的に見ても必然であり、今回も同様に立ち向かうことが困難であるわけを過去/現在の事例を豊富に利用しながら指摘する

という論旨の構成となっており、音楽業界にのみにあてはまる話が記載されているわけではない。

上記の点について、本書を引用しながらもう少しみてみたい。

テクノロジーは、テレビが生まれたときにちょうど映画産業に対してそうだったように、音楽産業に大きな断絶をもたらしている。映画館は当初テレビを大きな脅威とみなした。同じくラジオの誕生時には、音楽出版社は最初のラジオ局の営業を停止させようと訴訟を起こしている。・・・<中略>なぜ音楽産業は全体として見ると、今もなおデジタルが実現する・・・<中略>ヴィジョンに必死に抗っているのだろうか。それは業界の「リーダー達」が、対立するイデオロギーのまっただなかに囚われているからだ。一方にはデジタルネットワーク上の自由な情報がもたらす捉えどころがなく恐ろしいほどの無秩序があり、もう一方にはメディアの寡占支配への執着がある。彼らは行動を起こすのに必要な逃げ道を持っておらず、その板ばさみになっているのだ。
『デジタル音楽の行方』 〜第1章 P.14,15〜

というように、テレビの時でも、ラジオの時でもいつだって変化に抗う人がいて、抗う理由はいつだって同じじゃないか、とさらりと言ってのけている。アンチ・エスタブリッシュメントというとつい肩に力がはいってしまいがちだが、歴史観を持って「あぁ、いつものことじゃない」とカジュアルな感じで捉える胆力みたいなことが結構大事なんだろうなぁと感じた。

変化をもたらす力のある新技術は、それがもはや抑えきれなかったり、疑問の余地がなくなったり、あるいは訴訟で排除できないとわかるまで、必ずと言ってよいほど徹底的に抵抗され、そしてその後でテクノロジーの供給者が買収なり支配されることでしぶしぶ受け入れられ、それから成果をあげる
・・・<中略>ラジオは音楽出版社に「野放図な窃盗」という烙印を押されたし、初期のラジオ技師は「業界ぐるみ」で憎まれた。どこかで聞いた話じゃない?一九一四年、作曲家の権利を代表するために―ラジオの深刻な脅威に対する間接的な反応として―全米作曲家作家出版社協会(ASCAP)が設立された。ASCAPは、ラジオ局と直接ライセンス契約交渉を試み、うまくいかないと会員の著作権を強化するためにラジオ局を訴えた。・・・<中略>しかし結局最高裁判所は、ラジオ局は著作権侵害していないが、著作権のある作品の利用にASCAPとその会員に補填だけはするべしという裁定を下した。
『デジタル音楽の行方』 〜第8章 P.210,211〜

ラジオを例にとり、力のある新技術は抵抗を受けるのが常であるが、結局のところその力にあらがうことはできず変化が受け入れられるのもまた常であると語られている。抵抗の強さによってスピード感に変化はでるものの、最後は優れた技術の力がエスタブリッシュメントを押し切るということが過去の歴史から証明されているという事実は、変化に取り組む人間にとって大きな拠り所となり心強い。

RIAAがもっぱら「海賊コミュニティ」と呼ぶこれらの音楽ファンは、地球上で最大の音楽市場を構成している。この現象はいずれも消滅するものにすぎないのだろうか?電子フロンティア財団のフレッド・フォン・ローマンは、二〇〇三年にRIAAによる訴訟について、「六千万人ものアメリカ人を監獄に放り込もうとするのは、理性のあるやり方ではない。(二〇〇〇年の大統領選挙における)」ブッシュ大統領への投票数より多いのだから」と述べた。
『デジタル音楽の行方』 〜第8章 P.221〜

そして、デジタル技術分野の力は現アメリカの大統領に対する得票数をはるかに上回るほど、強大で過去の歴史から見ても、この大きな流れに抗うことなど到底不可能と結論付ける。

わかりあえない人たちと対峙する時、歴史観をもって「いつものことだ」と堂々と構え、「変化に抗うことは最後はできない」という信念を強く持てることは非常に重要だと思う。ただ、わかってはいても、一時代を築いた大勢の人間の真剣な抵抗はそれはそれで疲れるもの。だから、私は本書を読んで、勇気づけられるのだと思う。

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