毎日のように声高に叫ばれている「通信と放送の融合」。市井のユーザーからすると,韓国のようにテレビ放送が終了した後で,前回までのドラマが放送局のサイトからビデオ・オン・デマンド(VOD)で提供されるとうれしい。それこそが「通信と放送の融合」の身近な例だと思う。
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20051021/223242/
確かに「通信と放送の融合」は毎日叫ばれている。ところが「IT企業とマスメディアの買収合戦」というトピックが前面に躍り出て、そもそも「通信と放送の融合」とはどういう背景からでてきた話で、「通信と放送の融合」とは何を指すのかということが整理された報道というのはあまり目にしたことがない。特に新聞、テレビでは積極的に「通信と放送の融合」とはどういうことなのかを考えるよりむしろ、「何をしたいのかわからない」、「ビジョンが明確でない」と思考をとめてしまっているので(思考は働いているが、あえてそういう報道をしていないという可能性もあるが・・・)、あまり参考になるような情報はなかった。
そんな中で、IT Proの集中連載『通信と放送の融合』は考える要素がてんこ盛りで非常に面白い。あれこれ考えるネタが多くあるが、とりあえず最も基本的なところとして、「通信と放送の融合」とはどういう背景からでてきた話で、「通信と放送の融合」とは何を指すのかということを考えてみたい。
まず、「通信と放送の融合」がでてきた背景については下記のように整理することができる。
- 従来はTVという端末をもった不特定多数の人間に対して、"放送局によって決められた時間に"、"片方向で"、"放送局によってあらかじめ決めた"コンテンツを提供する「放送」という配信手段しかなかった。
- WEBの登場、Broadbandの普及に伴い、PCという端末をもった特定の人間に対して、"その人が欲しい時に随時"、"双方向で"、"その人が欲しいコンテンツを"提供する「通信」という配信手段が利用可能になった。
- 上記の技術革新に伴い、既存コンテンツは「放送による配信が適するもの」、「通信による配信が適するもの」、「両方適するもの」の3色に色分けができ、以外と既存コンテンツの中にも「通信による配信が適するもの」のポーションが高かった。
- また、通信の"双方向性"を活かして、既存コンテンツの価値をより魅力的にすること、もしくは新しいタイプのコンテンツをつくることが可能となった。
- 既存の価値の高いコンテンツを多く保持するテレビ局などの従来の放送メディアは、「通信」による配信やコンテンツ作成の手段・ノウハウに欠くため、技術革新を活かしたコンテンツ配信を視聴者に対して上手くできていなかった(あるいはできていない)。
で、上記の背景上ポイントとなるのは、「通信による配信が適するコンテンツを既存放送メディアが持っている」ということと「価値の高いコンテンツを製作する人的資源を既存放送メディアが持っている」ということだと考えられる。
そういう背景を考えると「通信と放送の融合」とは、「既存放送メディアが持っている通信による配信手段に適するコンテンツを通信で配信すること」と「既存放送メディアに属する高いコンテンツ作成能力を活かし、通信向けの新しいコンテンツを作成していくこと」というように整理ができる。
上記の整理が正しいとすると視聴者の立場からは「どうぞ融合してください」という話になるが、実際にはそうはなっていない。何故そうならないのかというと、既得権益を保持したエスタブリッシュメントとそれを壊そうという人というお決まりの構図があらわれてくる。具体的にはどんな構図なのかということはまた別途記載しようと思う。