Thoughts and Notes from CA

アメリカ西海岸の片隅から、所々の雑感、日々のあれこれ、読んだ本の感想を綴るブログ。

創発的ジャーナリズムの効果と功罪?

ブログ 世界を変える個人メディア

ブログ 世界を変える個人メディア

ダン・ギルモア氏の『ブログ 世界を変える個人メディア』をようやく読み終えた。実例が豊富なのと参照・引用が非常に多いのとで読むのに大分骨がおれた・・・。
でも、WEBの社会ではここ数年で、どんな人が、どういう手段・方法で、何を表現しているのかということが多くの実例とともに紹介されており、梅田さんが『ウェブ社会「本当の大変化」はこれから始まる』で言っておられる「総表現社会」という言葉が、本書を読むことによって今更ながら大分腹におちてきた。「具体的にどうすごかったのか」という事例を知りたい方にはお勧め。

内容については多岐にわたるが、読者という集団の情報量は一人の優秀なジャーナリズムの情報量を凌駕する、そしてテクノロジーがその集団の情報量を有効に活用することを可能にしつつある、よってもってこれからのジャーナリストは読者という集団のパワーをうまく活用しなければ生き残れないし、Mainstream Journalismとして生き残らなければならないということが本書の一つのキーメッセージとなる。あくまでジャーナリストとしての視点で語られており、表紙を見ると思わず誤解しそうになるが(私は現にしていた)盲目的なブログ賞賛本ではない。
内容もさることながら、結構面白いのが本書を書く過程で下記のように「集団の情報量の有効活用」という手法を自ら実践している点である。

・・・<中略>、私はこの本のイントロダクションと第一章の草稿を自分のブログに掲載した。読者には、事実関係の誤りを見つけたら、できれば電子メールで知らせてほしいとお願いした。合せて、私が重要なテーマを見逃していたら、あるいは、この本で絶対に扱うべきエピソードを知っていれば、どうか教えてほしいと問いかけもした。
読者は答えてくれた。
・・・<中略>本書の中で私が取り上げたアイディアは、この本自体の取材、執筆に不可欠となっていた。最初は、何が起こるのか全く想像もつかなかった。しかし今なら、自信をもって断言できる。このプロセスは見事に機能した。
『ブログ 世界を変える個人メディア』 〜エピローグと謝辞 P.390〜

必要な情報をできるだけ効率的に収集する手法として、進歩がものすごく早く、なおかつどこで誰がどんな素晴らしい取組をしているかなかなか追いきれないWEBのような領域の本を書く際の今後の一つの典型的な形になるかもしれない。

一通り丹念に読んで勉強になる点は多々あったが、少し不満が残る点もあった。この日記を書く上で、上述したキーメッセージを引用という形で残そうとしたが、本文の中にはなかなかCatchyなまとめのPhraseがない。で、「あっうまく表現しているなぁ」と思ったのが下記の記述。

"エスタブリッシュメント"のメディア組織が、一般の人々の頭脳を結集したエネルギーと知恵を取り込むことができれば、伝統的なジャーナリズムの力(編集判断、事実確認、真相追及)は、より信頼されるニュース報道の新時代をもたらすことになるだろう。それができないとなると、何の選別も行われないブログ型モデルのジャーナリズムが、純然たるエネルギーで伝統的なジャーナリズムを凌駕すると思う。そして私たちは、民主主義にかかわる重要な問題を、一般の人々に伝える強力な手立てを失うことになるのだ。

『ブログ 世界を変える個人メディア』 〜注168

創発的ジャーナリズムももちろんよいのだが、キーメッセージを最も適切にいいあてているのが、注というのも少々寂しい。全体的に読むのに骨がおれたのも、この辺も関係しているような気がしてならない。創発的というアプローチの功罪か、私が読み落としていたり、読み解けていないことがあるのかは微妙なところだが・・・。

最後に余談だが、外国の人が書く本の「謝辞」には多くの方の名前が紹介されるのが一般的であるが、本書の場合は名前の紹介だけで実に4ページもさいている。1行に5名の人がいるとして、実に約360名の名前が紹介されており、最後にご丁寧に「うかつにも名前を失念している人がいたら、申し訳ない」とまで書いてある(普通失念するでしょう)。私の記憶の中では、『ジャック・ウェルチ 我が経営』が今まで一番多く紹介されていたが、それだってせいぜい70名くらいである。この流れが進むと、本の半分は謝辞なんて珍本もでてきかねない。

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